2023年1月31日2023年2月1日 「ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)」にまつわる経緯とその解説 2022年(令和4年)12月23日、警察庁生活安全局保安課長名義で警察行政各所の責任者宛てに『ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)』と題する文書が通達されました。 宛先は警視庁生活安全部長・各道府県警察本部長などで、その後この文書を中心として様々なことがぱちんこ業界内で動き出しています。本稿では、当該文書の概要と業界内での動きについて、いくつかの要点を挙げて解説して参ります。 文書の内容と業界内の動きを詳述せずに要点だけに言及する理由としては、当サイトはぱちんこ業界人だけでなくユーザー側の読者も抱えているという都合上、業界関係者にのみ誤解を生じさせず周知することを想定して関連文書を作成した業界団体の方々の意図に反することがないようにと、では一切言及しなければよいではないかというご指摘に対しては、ぱちんこ業界には業界誌だけでなくSNS・まとめサイト・ユーザーによるブログなどたくさんの発信者が存在し、その一部において「今回の警察庁通達は大幅な緩和である」という誤解に基づいた発信を見受ける機会も多く、なるべく実情に即した発信がなされるように業界人の立場から掻い摘んだ解説をすべきと判断したためです。 上記の意図に因り本稿を書き進めて参りますが、まずは今回の警察庁文書の通達に至る前段階にあったこととして、業界団体側の働き掛けについて述べます。 最も早くにいわゆる広告宣伝規制(=平成24年通達文書)の原議保存期間満了を見据えた業界側からの新しい広告宣伝の在り方を提案していくような動きが確認されたのは、2021年(令和3年)8月のMIRAIと広告協議会(PAA)が共同開催した経営勉強会でした。 この場では、デジタル化社会を見据えた広告宣伝のルール作りについて議論され、「行政通知」と「各都道府県単位での規制」であれば見直しがなされる可能性があるため、これに該当するものを項目立てて取り組んでいければ、という内容になっています。 つまり、ぱちんこ業界に直接的に関係する「法令」(=風適法、景表法、その他条例等を包括した文言)や風適法の「解釈運用基準」という、そもそも見直しの可能性がないものをどうこう議論するという実効性がないものではなく、働き掛け如何では規制の全国統一化が図られたり、警察行政側が意図しているよりも過度に自粛したルール策定が原因で縮こまっている地域における広告宣伝の自由度を回復させるような実現可能性がある取り組みと言えます。 次いで2022年(令和4年)1月、旧規則機の確実な撤去とスロット内規の改正(6.5号機=MY2400枚から差枚数2400枚へ、有利区間3000Gから4000Gへ)という遊技機周りのことと木村義雄氏を後援して夏の参議院選に臨むだろうことが業界内の表側の話題でしたが、水面下ではホール団体の各所からメンバーを出し合っていわゆる広告宣伝規制に見直しが図られるように警察行政側に働き掛けを行っていくことを目的としたプロジェクトが始動するという話が出回りました。 そのような話が出てきた原因は、同月に日遊協が開催した定例理事会において、日遊協としても新しい広告宣伝の在り方を模索する前出の動きに協働していくという計画が表明されたからです。 ただしこの時点では具体的な内容は不明で、後日確認したところではホール4団体(全日遊連・日遊協・余暇進・MIRAI)の理事や事務方の上層部のみが事の次第を把握していたにすぎません。 同年3月、このプロジェクトの具体的な内容がようやく明らかになり、私としてはまずはそのスピード感に、次いでメンバー構成の豪華さに驚かされました。 まずはスピード感について、本格的な働き掛けが始まるという情報が出回ったその直後にあたる2月3日、ホール4団体代表者などが参加して「広告宣伝規制に関する検討会」が開催され、その場で各団体リーダーならびに法務に明るく実務に長じたメンバーで構成するワーキングチームが構築されています。 そして初回のWT会議が2月18日にもたれるのですが、ここで今後月1・2回という高頻度で集まって検討項目を詰めたり行政連絡を取っていく旨が取り決められ、3月14日の会議の時点で21項目を挙げて折衝していくことが決定しています。 次にメンバー構成についてですが、書いてよかろう範囲に留めますと、各団体の副理事長・理事・委員長であり名立たるホール企業のトップです。彼らを中心としたWTは遊技機性能について事実ベース(=メーカーが開示した継続率や出率、設定示唆演出など第三者が事実確認可能なもの)であればユーザーに対しても開示して構わないのではないか、また広告宣伝や催事においてより幅広い表現ができるように、時代に即したものになるように、などの観点で検討を進めていきます。 ホールの営業環境は2018年2月の改正規則施行と2020年3月から続くコロナ禍によって大きく客数を減らしており、この状況から新規のファンを獲得していくために、また10年前に通達されたいわゆる広告宣伝規制の内容ではその後高度にデジタル化が進んだいまの社会状況においてはなにもぱちんこ店に限らず広く民業の観点でも非常に不利な営業に留まらざるを得ないため、当時私としては至極真っ当な働き掛けが強力なメンバーで開始されたと判断し、その項目の多くが実現するだろうと見通しました。これが2022年のGW前後までの動きです。 その後の業界は、店舗レベルでは6.5号機仕様のスロット機によって7月以降スロットコーナーの運営見通しを上方修正する向きが出てきて、また業界団体として音頭をとるかたちで参議院選の話題で持ちきりになりました。 その後、広告宣伝関連のことは、6月4日に開催された全日遊連通常総会と6月14日に開催された日遊協通常総会の場での警察庁生活安全局保安課課長・小堀龍一郎氏による行政講話では話題にならず、強いていえば10月19日に開催された都遊協経営者研修会における警視庁生活安全部保安課風俗営業係係長・佐藤隆太郎氏による行政講話の中でいわゆる”晒し屋”を利用した発信手法について言及があり今後の取り締まり方針に影響してくるのかどうかちょっとした話題になったくらいで、このことすらもその後各地で釘調整での書類送検事案が相次いだことでそちらの方に話題が移った格好となりました。 まず東京でこのような行政講話が出た理由としては、都遊協が把握している限り年間で都遊連健全化センターがホール営業実態の是正指導を行った事例の約半数がこういった第三者によるイベント告知だということもあり、警察側もそのような事情を勘案してのことだったことが予想されます。 そしてようやくWTのことが表舞台に出て来たのが、11月22日に開催された余暇進の秋季セミナーにおける警察庁生活安全局保安課課長補佐・坂ノ上圭佑氏による行政講話です。 ここでは〈広告宣伝の規制については、現在ホール4団体による広告宣伝WTと意見交換を行っているところであり、業界からの要望を踏まえつつ、各店舗において時代に即した広告宣伝を行うことができるよう必要な検討を行っています〉という内容が語られています。 そのちょうど一か月後にあたる12月23日付けで警察庁生活安全局保安課長名義で通達されたのが、冒頭で紹介した『ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)』ということになります。時系列を辿りながら見てきて、ようやく現在の視点に追いつきました。 さて、この通達文書では、〈そもそも広告及び宣伝は、本来営業者が自由に行うことができるものであるところ、ぱちんこ営業における広告及び宣伝については、その方法如何によっては清浄な風俗環境を害するおそれがあること等から、規制がなされている〉とした上で、特に必要と判断したものに対して重点的に指導及び取締りにあたり、一定程度は〈業界側の自主的な取り組みを促〉すのが〈法の効果的な運用〉であると記されています。 つまり、各ホール組合が随時取り決める申し合わせや、法令違反が疑われる営業実態を同業者からの情報提供によって把握した場合に事実確認ならびに是正勧告する働き掛けを認める内容と受け取ることができ、また各都道府県警察本部としては、当該地域の遊協の自主規制を尊重してどのホール団体にも所属していないいわゆる”完全非組”店舗に対してもその趣旨の周知に努めるように通達されていますが、但し書きとして、自主規制に違反していることを捉えて行政指導に及んではならないと注意を付しています。 この通達に対してホール4団体が連名で『質疑書』を警察庁生活安全局保安課長宛てに送り具体的な6項目を挙げて回答を求めたのが2023年(令和5年)1月23日で、その内容は2022年3月の時点でWTが策定した21項目の内容ともリンクしています。 回答は1月25日に通知され、いずれの項目についても規制に違反するものではないと解されるという内容が記されています。項目の詳細については、ホール4団体組合員のみの共有とされていますので、ここでは詳述致しません。 質疑書の提出から回答までそれほど日を置かなかったことからWTの運営管理を担っている日遊協担当者による行政連絡がこまめに行われてきたことが窺え、またこの質疑・回答の直前にあたる1月20日に開催された全日遊連全国理事会における警察庁生活安全局保安課課長・松下和彦氏による行政講話で、〈広告・宣伝規制の扱いに関しては、昨年から、ホール4団体による広告・宣伝WTと意見交換を重ね、検討を進めています。風営適正化法等に違反する態様の広告・宣伝が認められないことは従来と変わりませんが、これまで様々な事情から生じていた地域差をできる限り解消するとともに、他業種では行われているような一般的な広告・宣伝ができなくなることのないようにしたいと考えています〉という、業界関係者にとってはかなり踏み込んだ言及があったことを考慮すると、おそらく昨年12月23日から今年の1月20日あたりにかけて、今回更新されたいわゆる広告宣伝規制に関しての”着地点”は見定められていたものと推察します。 そして、今後の動きについてですが、まずは通達の趣旨と質疑書・回答の内容をしっかりと読解することが肝要です。といっても、既に本稿で述べてきた中に、その主旨は示されています。 ①ホール4団体WTは、ホール営業における広告宣伝を”時代に即したもの”にすることを企図した ②警察庁は新しい広告宣伝の在り方について、これまでの様々な経緯から生じていた地域差を可能な限り解消していくことを目的としてWTとの意見交換に臨んだ ③警察行政はぱちんこ業界の自主的な取り組みを促すために、各ホール団体を通じて、質疑に応じていく構えである この3点が挙げられます。 ①については、2012年(平成24年)当時と比べてチラシのデジタル化やSNS発信の拡大といった変化に対応し切れていない現行規制に対して具体的項目を挙げつつ是非を問い、そのいくつかについて明確な回答を得た。 ②については、条例レベルでも問題がないことが確認されることで相対的に見てやれることの範囲や程度が増す地域はあるが、あくまでも緩和ではなく斉一性をとっていくという通達である。 ③については、各ホールからの広告宣伝上の質疑は所属組合・各方面遊協が取りまとめて警察行政に持っていくことになるため、完全非組にとっても各方面遊協の存在感が増す。 …このような内容であると言えます。 今後の動きとしては、前出ホール4団体からの質疑書に対して警察庁が回答した1月25日の翌日にあたる1月26日に全日遊連理事長名義で各都道府県方面遊協理事長宛てで『警察庁保安課長通達等を踏まえた広告宣伝の対応について』と題する書面が通知されており、その中でなるべく早い段階で『広告宣伝運用基準ガイドライン』を策定していく、という予定が示されています。 このガイドラインの中身についてですが、私見では、いわゆる平成24年通達のときのガイドラインほど自粛した内容にはならないように思います。その理由は、以前のものは逸脱した広告宣伝が目に余るため監督官庁として厳しく押さえつけるような内容だったのが、今回は規則改正による旧規則機撤去に際して申し合わせを機能させて遊技機の野積み(不法投棄)などの社会問題を発生させることなく完全撤去を達成したりコロナ禍に際して他の産業界と比べても極めて真摯に社会的要請に応えてきたことが評価されたという経緯もあってか、一定の信頼を得たような内容になっているからです。 長々と書いて参りましたが最後に、今回の一連の流れとその成果物としての警察庁通達・回答は折衝にあたってきたWTにとって”100点満点で、何点の出来”だったか、またWTの働き掛けにおいて度々”時代に即したもの”にしていくという文言が見受けられましたが、今回「時代に適した風営法を求める議員連盟」(現「遊技産業議員連盟)は絡んでいたのかどうか、という2点を挙げて私見を述べさせていただこうかと思います。 まず前者について、WTにとっては50点以上80点未満の内容になったと拝察します。理由は、当初挙げた21項目のうち3分の1の項目を通したこと、警察庁とその都度質疑書で交渉できること、これらを以て最低でも50点以上という自己評価はしているのではないかと思います。もちろん、21項目全てを通すことができなかった事実を以て0点という厳しい評価を下すメンバーも中には居るでしょう。 次に後者について、なにぶんまだ情報が少ない段階なのであくまでも私見ですが、議連としての働き掛けはなかったように思います。ホール4団体側から政治家に対して個別に意見を求めたことはあったかもしれませんが、それでもそのことによって警察庁の態度が変わることはなく、また議連が動いたのであればもう少し表の方に情報が出てくる場合が多いからです。 いずれにせよ、いち業界人として、今回のWTの働き掛けには感謝の気持ちしかありません。 特にホール関係者の皆さまにおかれましては、陰働きして下さる方々に思いを致し、その意に反するような営業にならぬように留意しつつ、ユーザー最前線の現場にて奮起して下さることを祈りつつ本稿を了とします。 関連 DIARY
時系列の詳細の解説、大変興味深く拝読致しました 一般人の立場で行政講話を読み解いても、単純な規制緩和ではないと理解出来ました 各地域遊協毎の自主規制や都道府県条例を尊重しながら、自浄作用に期待する旨が強いと感じています 単純な規制緩和ではありません ただ、先人や現業界団体が積み重ねてきた努力を無碍にしてしまう輩が、何処かで湧いてくるのでしょうね 確かに時代に則した宣伝広告の策定は必要だと思います ただ、その解釈を巡ってチキンレースにならない様に願うしかありません 返信
公表してもどこからも怒られないギリギリの内容になったかと思います。 本当はWT主要メンバーや警察行政との連絡係を担った方々の名前も記載して敬意を表したかったのですが、 削除要請が来ると面倒なのでやめておきました。 返信