2023年1月12日2023年1月12日 アイスクリーム オン ザ テレビデオ GLAYが短いスパンで新曲を発表するたびに話題になっていた頃なので1998年から1999年にかけてのことだったかと思いますが、同じドイツ語の講義を受けていてたまに一緒に安いラーメンを食べる仲だった友人宅のテレビデオの上で、真っ白なアイスクリームがどろどろに溶けるという珍事件が起こりました。 綱島駅を降りて大きな公園がある方へと歩いたところの住宅地に彼のアパートは在って、そこは戸建て住宅の裏手にある別玄関から入ると4畳半くらいの部屋が上下階合わせて6部屋ほどくっ付いている学生限定入居の物件です。 住まわせた学生が払う家賃で住宅ローンを返していき完済したら賃貸部分をリフォームし老後に備えるなどのプランでそのような造りにする場合があるそうで、彼の部屋は狭い階段を上がってすぐの場所でした。 小さい画面だったので14インチだと思いますが、一緒に帰宅して部屋に入ったとき目に飛び込んで来たのが、冒頭で述べた通りそのテレビデオの天面いっぱいに広がった液体です。ここでひとつだけ、どうにも合点がいかない点がありました。 それは、出掛ける前まで間違いなくアイスクリームだったことを示すのはそこら中に漂う嫌な甘さだけで、一般的にアイスクリームの形状を保つのに必要な容器や包み紙や棒といったアイテムが、そこに何ひとつ無かったことです。 「どういうことなの?」と私は彼に聞きました。 すると、「この前もあったんだよ」と返ってきました。 「この前もあったんだよ・・・・・・・・・・」 直ぐには彼が言わんとしていることが理解できずに私は、落ち着いてこの言葉を呪文のように唱えて反芻し、そして精いっぱいの想像力を働かせていくつかの可能性を考えました。 ケース①同じアパートに住む学生のいたずら ケース②カラスがゴミ捨て場から容器ごと咥えてきて、そこで食べて容器だけ持ち去った ケース③人知が及ばぬ奇怪な現象がそこで起こった 他人事のような言い方だったので本人は関与していないだろうと考えると、ざっとこんなものです。 まあ、②は外出時に窓を閉めますから無いとして、③はたとえばVHSビデオデッキの部分が故障していて最後に再生した場面に映っていたアイスクリームが特殊な条件下で現実世界に生成される……などといったストーリーだとちょっとした小説のようになりますが、そんなことは無いので残りは①として、彼に質問です。 「誰かのいたずら?」 「そういうのじゃない、俺がやったんだと思う」と彼は応えます。 更にまた状況がわからなくなりました。 ケース④酔っぱらっていたときに、そこに置いた ケース⑤彼は、何者かに心身を操られるときがある これらを可能性リストに加えますが、泥酔していたなら語学の講義は休みますからその日こうして一緒に行動することもありませんし、⑤だとあまりにも怖すぎるのでこれ以上は考えないようにしたい……となるともう、直接的に聞くしかありません。 いったいなぜ、アイスクリームをテレビデオの上に置いたのか? 彼は応えます。 「アイスを食べているときに棒から外れて床に転がったやつを、取り敢えず置いたっぽい」 「この前はご飯だった。おにぎりを食べていたときに、崩れて落ちたのを置いたっぽい」 完全に変な人が話す内容のようですが、説明されてみると、なるほどそれなりに納得するような生活空間になっています。 まず、灰色だったか水色だったか失念しましたが、それほど綺麗ではないカーペットが敷いてあり、そこに落ちたものは食べたくありません。 では、すぐゴミ箱に捨てればいいじゃないかと思って室内を見渡すも、そういえばこの部屋にはゴミ箱がありませんでした。コンビニのビニール袋に入れておき、外出する際にアパートの共用ゴミ捨て場にポイするスタイルです。 ゴミ袋のストックが無い場合はどうするか?たとえばカップ麺の残り汁などを共用キッチンに捨てに行くのが面倒なときなども、取り敢えずテレビデオの上に置いておくようです。 つまり真相は、彼にとってブラウン管型テレビデオの広い天面は、室内で発生したゴミを仮置きするスペースとして使われている、ということでした。 学年が上がって通うキャンパスが別々になってから彼とは疎遠になりましたが、最後に会ったときは「コクイチ(国家公務員Ⅰ種試験)を受けるんだ」と話していました。 私は留年してパチンコスロット店に入り浸り、その後ぱちんこ業界入りするという人生を歩みましたが、彼はどうなったのか。 お互い立派な中年になりましたが、いまでも健康で暮らしていることを祈ります。 関連 DIARY