2022年12月21日2022年12月23日 アンジャッシュとユニバーサルデザイン 2022年10月下旬、遊技場経営者研修会に出席するため中野サンプラザに出向きました。 到着した時間帯が正午過ぎだったこともあってか小規模店がたくさん軒を連ねる商店街の界隈は未だコロナ禍にあることを忘れさせてくれるかのような活況で、私は大ぶりな牡丹海老と色鮮やかなウニの軍艦巻きに惹かれて立ち食いスタイルのお寿司屋さんに入りました。 その後は、約三時間という長丁場になる研修会に備えてお茶を買い求めるために施設内をうろうろし、最後にトイレを使ってから会場に戻りました。トイレの場所は立て看板で案内されていたのですが、そこに「多目的トイレ」という文字を発見しました。 アンジャッシュの渡部氏による一件からだいぶ日が経ってはいるもののやはりそのことを連想してしまい、一旦変な印象が付いた芸能人というのは挽回するのが大変で、特にお笑いの人であればそれすらもネタに転換する図太さみたいなものを持っていないとその後の活動にマイナス影響するというのは、彼の現状を見ての通りだなと思わされた次第です。 さて、この多目的トイレですが、建築設計の観点では「ユニバーサルデザイン」のひとつとして位置付けることが可能です。 ユニバーサルデザインの概念は多義的ですが、環境に馴染むように、より多くの属性の人に伝わって尚且つ使い勝手が良いように、という考え方に基づいて設計された設備であれば、だいたいはこれに該当するように思います。 これは元々、1980年代のアメリカで車椅子を常用している身体障がい者がトイレを利用する際に「妨げになるものを排除する」という意味での「バリアフリー」の観点で生まれたもので、後年そこにベビーカーを押したりキャリーバッグを持って移動中の人でも周囲に気兼ねなく空間をゆったりと使って用を足せるように、また身支度や乳幼児のケアができるようにと考えて、特定の立場の人たちにとってではなく「誰でも利用し易いものであるように」という意味を込めてユニバーサルデザインへと発展したという経緯があります。 「トイレ」の場合ですと、一般的には用を足すことが可能なだけのスペースがあればそれで構わなかったのを、空間的な自由度が必要な立場の人たちにとって利用し易いように、壁による空間的な制限を一旦取っ払って従前の基本的な構造よりも室内を広く、また便座や洗面台などの間隔を空けて設置したことがバリアフリーの始まりなわけですが、他にもたとえば「階段」の場合は、通常の階段の端に車椅子用の運搬機を設置するというのが同じ観点での対策ということになります。 ここから一歩進めて、車椅子の人に限ったものではなくより広いトイレ空間が必要な人たちに向けて、用意がありますよ、ご自由に利用してして下さいと案内した上で提供している設備が多目的トイレということになります。 同じく階段の場合ですと、いちいち係員を呼んだり他の人の助けを得なくても自力で段差・高低差を乗り越えられるように「スロープ」を設けて対処したというのが、ユニバーサルデザインということになります。 概念的に言い換えると、いわば「特殊な用途」であったはずのものでも、その必要性が広く認知されて「市民権」を得てしまえば「一般化・普遍化」する、それを以てユニバーサルデザインとする、ということになります。 中野サンプラザは開業したのが1973年(昭和48年)で、その後細部の改装は行っているのでしょうが階段の多さにも見受けられるように基本的な造りはバリアフリーやユニバーサルデザインが当たり前になったよりもひとつ前の時代の建築物ということになります。 なので、というわけではありませんが同所で「多目的トイレ」という案内を見た際に若干なりとも違和感があり、そのときにこの記事を書いてみようと思った次第です。 そういった経緯で、多目的トイレなんだから多目的に利用しても構わないだろう、いま自分はこういうことがしたいんだ、という人が自由に利用しても問題ないことになりますが、必要性・優先度・倫理観という条件で絞り込んでいくと、そりゃマズいよねという行為もあるわけで、つまりはアンジャッシュ渡部氏はやはり「やっちまったな、オイ」というツッコミを受けても仕方ないだろうと述べて、本稿を締めます。 関連 DIARY